配管系の耐震設計
耐震設計と耐震診断
■耐震設計
●耐震設計の流れ
個々の設備の耐震設計の流れは、基本的には次のようになります。
構造計画とは、地震の影響を低減するのに最適と思われる構造を考え、計画することをいいます。軽減例でいくつかの例を示しましたが、あのような構造を考えるのが構造計画です。定量的評価の方法は、適用される法規があれば、最低限度の義務事項としてこれに従うことになります。
●設計審査と安全審査
耐震設計に限らず、安全設計の信頼性は人によって違ってきます。人が行うことですから設計ミスもあります。これを防ぐために行われるのが、チェック&レビューであり、設計審査であり、安全審査です。設計審査は第3者が加わる審査であって、複雑なシステム、構造物の安全設計では、関連分野の熟練技術者、専門家の参加が大切なこととなります。事故を起こした場合の影響度が大きい設備については、安全設計、製造、建設工事の信頼性を高めることが必要であり、これを確認するために行われるのが安全審査です。設計審査、安全審査は、災害リスクの軽減のために、プラントオーナー、コントラクターの双方にとって大切なこととなります。
●完成後の現場確認
圧力、熱、自重、管内流れに対する設計は操業に入る前に試運転で確認できますが、耐震設計が適切に行われたかどうかは試運転では確認できません。地震に対する弱点を残してはいないか、隣接構造物との動的な干渉の可能性はないか、設計で意図したとおりに工事が行われたかなどの確認は、保温・保冷工事前に実施するのが確実な方法となります。
■耐震診断
●耐震診断の流れ
既設の配管系の耐震診断の流れは、改造工事まで含めますと、以下のとおりとなります。
●耐震設計との共通点
耐震診断では、配管本体に脆弱部はないか、サポートに弱点はないか、慣性力・相対変位に対して弱点はないか、大揺れ、滑動に伴う障害の可能性はないか、地盤変状に対して弱点はないか、などを、現場を見ながら判断していきます。この点では、新設プラントにおける完成後の現場確認を第3者が行う場合にほとんど同じです。
●耐震設計との相違点
年月を経たプラントの配管系の耐震診断では、配管、支持構造物ともに劣化の影響を考慮する必要が生じてきます。保温・保冷がされていると、サポートの状況、外面腐食の状況を外観からはチェックできません。保全の記録があれば、これを活用します。また、サポートの追加、取り外しなどは比較的容易にできますが、形状を変更しようとするとコストも嵩みます。新設の場合は不確定要素に対して安全余裕を考えた評価基準にすることができますが、既設の場合は不確定要素をできるだけ確定化し、緩やかな評価基準にする必要があります。また、部分的な改造工事は全体の強度的バランスを崩すことがあります。耐震診断では、塑性変形、構造力学に関する知識が、新設の場合以上に求められてきます。
■教育・訓練
●設計者に求められる能力
地震に対して弱点のない配管系を設計するには、配管のエネルギー吸収能力、変位吸収能力に関する基本的知識を持ち、実際の地震被害例を知り、どんなところに弱点を残しやすいかを知り、地震による影響の軽減方法を知っていることが、設計者に求められます。さらには、各種設備、構造物の地震応答の特徴を知り、地盤変状の影響を含めて設備、構造物の地震時の挙動及びその影響を受ける配管の挙動を、頭の中で描くことのできる能力が求められます。このような知識・経験・創造力は、教育・訓練や実務経験によって養われるところとなります。
●診断者に求められる能力
配管系の耐震診断者は、設計建設を終えた配管系の耐震性を審査する立場となります。必要と判断された場合には、現場の状況に合わせて、実現可能な改造案を考えることになります。配管系の耐震診断は、前述の知識・経験・創造力を備えた熟練した、配管設計者の仕事であるといえます。
●工務・保全担当者に求められる知識
プラントを新設する場合において、コントラクターが適切な耐震設計を行っているかどうかを監理するには、発注者自らも耐震設計の知識を有していることが求められます。保全担当者が耐震設計の知識を持てば、耐震設計で意図しているところを理解でき、保全の一環として耐震性を維持していくことができるようになります。潜在的な弱点に気づくようになれば、自らの判断で耐震性を向上していくことができるようになります。こうした能力を備えるのも、教育・訓練によるところとなります。