配管系の耐震設計
はじめに
プラントには膨大な量の配管があって、あるものは地上を、あるものはラック上を、あるものは空中を、大小入り混じって縦横無尽に走り回っています。
プラントの配管系の設計、建設工事、保全に係っておられる方は、これらの膨大な量の配管を前にして、次のようなことをお考えになったことがあると思います。
- プラントの配管は過去の地震でどのような被害を受けたのか。
- 壊れる配管と壊れない配管があるのはなぜなのか。
- どうしたら壊れないようにできるのか。
- 耐震設計と耐震診断の違いはどこにあるのか。
本章は、これらの問いに答えようとするもので、構成は以下のとおりとなっています
●配管系の地震による影響
●エネルギー吸収能力と変位吸収能力
●配管系の地震に対する弱点
●地震の影響の軽減
●耐震設計と耐震診断
構造物の耐震設計では、地震の影響を受けにくい構造、破壊に至らない構造を考えること、つまり構造計画が大切なこととなります。配管系は、プロセス条件、レイアウトによって構造が1本1本異なり、支持構造物、周辺構造物の揺れの影響や地盤の液状化の影響を受け、また、自らの揺れ、移動が小口径配管など、より弱い構造物に影響を及ぼすこともあるため、このことが特に大切なこととなります。多くは定性的配慮、構造的配慮ですむことですが、支持構造物などの設計と調整しなければならないこともあります。ここで述べることは、その構造計画、定性的配慮に必要な知識となります。
構造計画の妥当性を確認するのに耐震計算が必要になることがありますが、このときに拠り所となるのが法規(基準)や指針です。しかし、法規は最低限度の義務事項であって、これを守ってさえいれば安全というものではありません。また、最適な構造であることを保証するものでもありません。基本を理解していないと本質を忘れ、耐震計算が目的になってしまい、時間をかけるばかりで地震に対する弱点を残してしまうことにもなりかねません。
基準や指針を正しく理解し、これらをうまく活用し、さらには、基準、指針が定量的に定め難いところを補うためにも ここで述べる知識、経験が必要となります。配管系の耐震設計・耐震診断の信頼性は、設計者、診断者が、これらの知識・経験をどれだけ有しているかにかかっているといって過言ではないでしょう。
また、ここで述べることは、高圧ガス、危険物、ユーティリティ、防消火などの配管系に、そして石油精製・石油化学プラント、発電プラント、LNGプラント、肥料プラント、浄水場などの配管系に共通のものです。
概要説明、定性的説明にとどまっていますが、配管系の耐震設計・耐震診断について理解される上で、その一助となれば幸いであります。
(有)プラント地震防災アソシエイツ 稲葉 忠
やや詳細にまとめたものが、"過去の地震災害から学ぶ配管系の耐震設計"と題し、
配管技術 増刊号630. Vol.47 N0.11(2005/9)に掲載されています。