配管系の耐震設計
配管系の地震に対する弱点
都市の機能や市民生活は、電気、ガス、飲料水、ガソリンなどのエネルギー、ユーティリティが安定して供給され、また、交通が順調且つ安全に運行され、電話回線が正常に働くことによって成り立っています。
■配管系の地震被害
プラントの中には膨大な量の配管があって、あるものは地上を、あるものはラック上を、あるものは空中を、大小入り混じって縦横無尽に走り回っており、地震時にあって一体どこでどんなことが起きるのか皆目見当が付かないというのが、誰もが最初に思う気持ちです。
耐震設計は経験工学ともいわれ、地震被害の調査、損傷モードの解明が、耐震技術の進歩のために非常に大切なこととなります。配管系の地震被害は、これまでに新潟地震、十勝沖地震、宮城県沖地震、千葉県東方沖地震、兵庫県南部地震、2003年十勝沖地震などで経験してきました。プラントは安全と守秘のために入構に制限があり、一般の建築物に比べて調査し難い面がありますが、柴田博士らにより都度綿密な調査が行われ、損傷モードが解明されてきています。そうした成果により、混沌とした中でどのようなことが起きるのかが明らかにされてきました。
■配管系の損傷要因
配管系の地震被害の分類方法にはいくつか考えられますが、慣性力、相対変位、地盤変状による影響を受けたものについて、損傷要因として配管要素に弱点があった場合と、配管系に弱点があった場合とに分けて分類してみます。さらに細かく分類しますと個別の事例になります。参考にした事例は、公開されている報文、論文の他、自ら見聞したものを含めています。
●配管本体に弱点
配管本体に弱点があったことによる損傷事例には、材料に弱点があったもの、継手に弱点があったもの、サポート反力受荷構造に弱点があったものなどがあります。鋼製配管の場合は、いずれも鋼管のエネルギー吸収能力、変位吸収能力が発揮される前に、地震のエネルギーが当該部位に集中したことによって起きています。これについては前にも説明しました(配管のエネルギー吸収能力・変位吸収能力≫鋼管のエネルギー吸収能力≫脆弱部の影響)。
●サポートに弱点
サポートに弱点があったものには、配管サポートに弱点があったものと、機器の揺れ止め(振れ止めともいう)に弱点があったものとがあります。いずれも揺れ止めの配慮はされていたものの、意図通りには機能せず、その影響が配管に及んだものです。
●慣性力・相対変位に対する弱点
慣性力・相対変位による損傷は、相対変位によるものがほとんどで、配管本体の局所に弱点があった場合や大揺れなどによる二次的なものを除きますと、慣性力によると思われるものはほとんどありません。配管は自らの重量しか支えていませんので、薄肉大口径の液配管(これらは地上または比較的低いラック上に敷設される)を除けば、共振したとしても入ってくるエネルギーはそれほど大きくはなく、配管のエネルギー吸収能力を上回るようなことがなかったと判断されます。さらに大きな地震が来たら分かりませんので、剛性不足と配管反力に敏感な機器は要因として残しています。大揺れ・滑動に伴う障害については別に説明します。
●地盤変状に対する弱点
地盤の液状化が原因で発生する相対変位は、規模が大きいと大きな被害を与えます。可撓管の変位吸収限界に達してからの損傷は、可撓管自身が壊れた事例と、配管のフランジから漏洩に至った事例とがあります。 配管反力に敏感な機器の損傷としては、鋳鉄製ポンプのケーシングの割れや、芯ずれによる回転機運転不能などの事例が報告されています。
●配管の揺れ・滑動の影響と構造物の倒壊、物の落下などによる影響
配管の大揺れ・滑動の影響と、構造物の倒壊、物の落下などによる影響については、前に説明しました(プラントの配管系の構造と地震による影響≫配管系の地震による影響≫配管の揺れ・滑動の影響、構造物の倒壊、物の落下などによる影響)。これらの影響による損傷事例は、漏洩事故には至らなかったものを含めますと、ほとんどのものが実際に起きています。