配管系の耐震設計
地震の影響の軽減
■地震による影響の軽減方法
配管の地震被害には、主たる要因が配管要素にある場合と配管系にある場合とがあることを前に説明しました(配管系の地震被害と損傷要因≫配管系の損傷要因)。配管の地震被害をなくすには、配管要素に弱点を残さず、配管のエネルギー吸収能力、変位吸収能力を高めるとともに、入ってくる地震エネルギーを軽減する工夫が必要となります。 ここでは初めに配管要素の弱点の回避について述べ、続いて構造物に支持された配管系について、慣性力、応答変位、地盤変状による影響の軽減方法と軽減例を説明します。
●弱点の回避
配管要素の弱点を回避することは、配管のエネルギー吸収能力、変位吸収能力を発揮する上で大切なこととなります。弱点を配管要素とサポートに分け、配管要素をさらに材料、継手、局部構造に分け、サポートもさらに材料と定着部に分け、それらの弱点の回避策をまとめると、次のようになります。
配管要素の弱点の回避は、配管のエネルギー吸収能力、変位吸収能力への影響を認識し、設計、工事、保全の各段階で管理するというのが対策ということになります。例えば、フランジ継手は過大な曲げモーメントが発生する領域では使用を控えるか、過大な曲げモーメントが発生しないように配慮し、ねじ込み継手は破断を避けたい場合は溶接継手にするか、相対変位が作用しないよう配慮することです。サポートについては、それが機能を喪失した場合の影響が大きいものについては、機器の振れ止め用サポートを含め、強度を十分に管理することが必要となります。
●慣性力、相対変位、地盤変状による影響の軽減方法
地震による影響には、既に説明しましたとおり、地震動による影響と地盤変状による影響とがあり、地震動による影響には慣性力による影響と相対変位による影響とがあります。それらの影響の軽減方法をまとめますと、次のとおりとなります。地盤変状に対する可撓性の確保に可撓管を用いる場合にあって、可撓管の変位吸収限界を超える相対変位が発生する可能性を残している場合には、限界に達してからの可撓性を配管側に付与しておくことが望ましいこととなります。
■地震による影響の軽減例
慣性力、相対変位、地盤変状の影響の軽減例を図で説明します。
●慣性力の影響の軽減例
左側の図を見ていただきますと、このままでは大口径の配管が架構上を滑動して付属の小口径配管に相対変位を与えて損傷させたり、隣接する弱小構造物に衝突したり、さらには架構から落下する恐れがあります。これを右側の図におけるようにガイドあるいはUボルトによって大口径管が架構と一緒に揺れるようにすれば、そうした可能性はなくなります。大口径の配管は、ラックと一体になって揺れるようにするのが基本です。
●相対変位の影響の軽減例
次に相対変位の影響の軽減例を説明します。
左側の図を見てください。この構造では、テーブルトップ上のスカート支持の塔から隣の架構に渡る配管が塔と架構間の相対変位の影響を受け、配管が損傷する恐れがあります。また、架構上のラグ支持の塔が小梁を回転のばねにしてロッキング振動を起こし、架構間に相対変位を生じて配管が損傷する恐れがあります。
右側の図では、スカート支持の塔から出る配管を、塔の応答変位が小さくなる低い位置まで降ろしてから架構側に渡しています。また、ラグ支持の塔の頭部に振れ止めを設けてロッキングを抑制するとともに、振れ止めの間隙分の相対変位を吸収できるようにしています。重心近くで支持し、ロッキング振動を起こりにくくする方法もあります。
地震の影響大 | 地震の影響小 | 地震の影響小 |
●地盤変状の影響の軽減例
次に地盤変状の影響の軽減例を説明します。
この例では、横置円筒形貯槽の払出配管について、緊急遮断弁の後を貯槽と共通の基礎上に固定し、地盤変状が起きても重要部位(緊急遮断弁からノズルまで)に影響が及ばないようにしています。固定サポートの後の配管については、エルボと直管で可撓性を確保し、配管反力を小さくして固定サポートの設計を楽にしています。
地盤変状前 | 地盤変状後 |
次の例では、道路横断部を利用して水平方向の相対変位を吸収しています。地盤の水平移動が大きい場合、移動量の大きい護岸近くで相対変位を一旦吸収しておけば、設備周りに及ぶ影響を軽減することができます。